「紀州雛」復活 一度は途絶えた伝統工芸品

和歌山県の郷土伝統工芸品で、2016年を最後に生産が途絶えていた海南市黒江地域の「紀州雛」が、このほど現代版として7年ぶりに復活。同市船尾のうるわし館で販売が開始された。

日本三大漆器の一つで国の伝統工芸品である紀州漆器の技法を受け継ぐ紀州雛。同市で代々続いた紀州雛作りの職人、池島史郎さんの曽祖父が、1931年に黒江の名物になる土産品を作りたいと考え、誕生した。

その後、専売特許的に2016年まで生産されていたが、技術を引き継ぐ職人がいなかったことから途絶えてしまった。17年2月には販売も終了となり、紀州雛は店頭から姿を消した。

その後、紀州漆器協同組合に「再販してほしい」と多くの要望があり、「産地として復活させたい」と、18年末に同組合の若手有志メンバーが立ち上がり、「紀州雛復活プロジェクト」として活動を始めた。

メンバーに同組合青年部が多数いたことから、青年部の活動として取り組むようになる。青年部は、塗りや蒔絵(まきえ)などの技法は継承していたが、木地造りにはこれまで携わることがなかったという。現存する紀州雛を基に一体ずつ轆轤(ろくろ)を回して丸い形に仕上げるところから始めたが、同じ形にそろわないという課題に悩まされ苦慮した。

そんな中、青年部員の事業所に、先端木工機器が導入されることになったことから、形の均一な木地を製造することが可能になった。現代の技術を駆使し、約6年の歳月を費やして紀州雛の製造工程を確立させた。

これまでの紀州雛には、縦長やわんを逆さにしたような形などさまざまあったが、復活した紀州雛は、人気のあった丸い形を取り入れた。直径、高さともに8㌢、色は伝統的な「紺色と赤色」、個性的な「ピンクと白色」の2種類。

木地造りから絵付けまで1体ずつ全て手作業で行い、表情や着物のデザインが違っており、同じものは二つと無い。職人の技術が詰め込まれている。

22年12月に「紀州雛」として商標登録され、青年部の製造方法を基に、「木地」「塗り」「絵付け」の工程に市内の5事業者が携わり、製造が始まった。同組合の小柳卓也事務局長(61)は「多くの人に親しまれてきた紀州雛。1点ずつ手作りで温かみがあります。ぜひ手に取ってご覧ください」と話している。

1対6万500円。うるわし館で購入できる。問い合わせも同館(℡073・482・0322)。

復活した「紀州雛」をPRする、うるわし館の従業員

復活した「紀州雛」をPRする、うるわし館の従業員