5年ぶり「天鼓」で復活 日前宮薪能
第45回「日前宮薪能」が8日、和歌山市秋月の日前宮で5年ぶりに催され、大蔵流狂言「梟(ふくろう)」、観世流能「天鼓(てんこ)」を上演。かがり火が照らす神楽殿で演じられる能と狂言の世界を大勢が楽しんだ。例年は夏に行ってきたが、コロナ禍で中止を余儀なくされ、開催を7月から4月に変えての上演となった。
これまで過去44回は7月26日の夏祭りの日に合わせて執り行ってきたが、作今の猛暑を鑑み、演者の体力や衣装への影響を考慮して、御鎮座由来の4月8日に変更。来年以降もこの日に開催するという。
この日は雨が降る中、夕暮れとともに神事が執り行われ、2基のかがりに火がともされた。
同市の観世流能楽師・小林慶三さん、奉賛企業を代表してユカタ交通㈱代表取締役の豊田英三さんが奉行を務め、あいさつ。紀俊崇禰宜は「ゆかりの深いお2人に奉行を務めていただき、5年ぶりに再開できることに感慨深いものがございます。雨の中、御不便をおかけしますが、最後までお付き合いいただければ」と呼びかけた。
大蔵流狂言「梟」は、フクロウにとりつかれた男を山伏が祈とうで治そうとするあらすじ。茂山逸平さんらが、鳴き声が兄弟に伝染していくやりとりを演じ、笑いを誘った。
観世流能「天鼓」は、少年の「天鼓」と美しい鼓の音色がたどる悲しい運命、父子の絆を描いたもの。分林道治さんがシテ(主役)を務め、息子を失った父親の悲哀や、亡霊となった天鼓が、自身のためになされている供養に感激し、鼓を打ちながら楽しげに舞う姿を演じた。
橋本市から訪れた「橋本狂言会」の会員で、演者でもある脇田清司さん(61)、上西起代美さん(68)は「プロの方々の演技力は素晴らしかった。能面を着けてあれほど舞えるのは、さすが。深い情愛や鎮魂の思いが伝わってくるようでした」と話していた。