薄口醤油で癖が無い「とまり漬け」

源五兵衛を加工した「とまり漬け」
源五兵衛を加工した「とまり漬け」

江戸時代から栽培が続く、和歌山の伝統野菜「源五兵衛(げんごべい)」を取り上げている。前号では、古くから受け継がれる粕漬の製法と、その味わいについてお伝えした。

近年は、消費者の嗜好に合わせ、薄口しょうゆに漬け込まれたしょうゆ漬けの販売が始まっている。今週は、鳥取県の名産品となっている「とまり漬け」を紹介したい。

和歌山市の布引地区を中心に栽培が広がった源五兵衛であるが、現在、県内での栽培はわずか。和歌山市と同様に砂地の地形が特徴の鳥取県では、源五兵衛が積極的に栽培されている。

主な生産地は湯梨浜町。鳥取県の西部に位置する。ここで栽培される源五兵衛を半年程度、酒粕に漬けて寝かせた後、酒粕と塩を抜き、薄口しょうゆで漬ける。収穫から加工され出荷するまで約1年かけて出来上がったものが「とまり漬け」だ。

大変なのは加工の工程だけでなく、収穫も。とまり漬けに適した果実の大きさが直径5・4㌢から6·4㌢のものと定められているため、成長が早い源五兵衛は、朝に直径5·4㌢未満であっても1日で6·4㌢を超えるサイズになる。そのため、農家は一日に複数回の収穫を余儀なくされるという。とまり漬け(鳥取県産)と源五兵衛(和歌山県産の粕漬)のサイズを比べると、とまり漬けの方が、果実のサイズが小ぶりであることが分かる。食してみると、源五兵衛(粕漬)と比べ柔らかい。コリコリした食感は無く、巨大なオリーブを食しているような感覚である。サクサクとして粕漬特有の香りもなく、甘辛いしょうゆの味付けと、刻まれた鷹の爪のピリ辛さが絶妙である。小さめのサイズで収穫され、外皮が薄いからなのか、しょうゆ漬けによるものなのか、理由は定かでないが、柔らかくプニプニとした弾力がある。(次田尚弘/和歌山市)