「畑のロス」耕し資源に まつばら農園

和歌山県紀の川市東毛で柿などを生産するまつばら農園の松原好佑さん(35)が取り組む、廃棄される果物で和紙を作るプロジェクトが「ソーシャルプロダクツ・アワード2025」(SPA)でソーシャルプロダクツ賞を受けた。松原さんは「小さな農園の取り組みが評価されてすごくうれしい」と喜んでいる。

ソーシャルプロダクツとは、エコ(環境配慮)、オーガニック、フェアトレード、地域や伝統に根差したものなど人や地球にやさしい商品・サービスの総称。同アワードは、一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会(東京)が普及・推進を目的に設けた日本で初めての表彰(推奨)制度。12回目となる本年度は大賞、優秀賞などの他、45の企業・団体がソーシャルプロダクツ賞に選ばれた。
明治時代から続くまつばら農園6代目の松原さんは、就農11年。年間約50㌧の柿を生産している。傷や変形、熟し過ぎなど出荷規格に合わず流通させることもできない「畑に捨てられる柿」が約1・5㌧あるという。松原さんは「農業を始めた時、その多さにびっくりした。でもだんだんそれが当たり前になってくる」と振り返る。
「畑のロス」は生産を続ける以上なくならないが、松原さんの心に「恥ずかしいことをしている。子どもに見せられないな」という思いが芽生え始めた。
「おいしいものを、たくさん作るだけではいけない」――。果物王国といわれるこの地域で廃棄される資源を魅力ある宝物にアップサイクルしようと、2022年に複数の農家らと「のうかのしゅくだい」プロジェクトを立ち上げた。
小さな傷がついた柿はジャムやドライフルーツにするなどの方法はあるが、食品として加工するには安全性が難しいものはどうするか試行錯誤していた。
そんな時に知ったのが、果物や野菜の繊維から和紙を作っている福井県越前市の㈱五十嵐製紙。同社を訪問し、紙の原料不足で困っていると知り、互いの課題解決につながればと和紙を作ることに決めた。果物をミキサーにかけた後にコウゾなどの紙の素材を混ぜ、すいて薄くのばし、乾燥させて作る。柿と同市のキウイ、イチジクを使用した和紙は、皮や果肉の色が残る柔らかな色合いになっている。今後は名刺、賞状、卒業証書や、柿、キウイ、イチジクを詰めて送る際の段ボールなど、幅広い活用法を考えていくという。
SPAの審査では「一般的な食品ロス対策ではなく、政府や行政が手をつけにくい『畑のロス』に着目し、農家などと連携している点に独自性が感じられる」と評価された。
松原さんは「地球温暖化が進むにつれロスも増えていく。出荷できるものだけが果物じゃない。畑にできたもの全てが宝物。子どもに自信を持って農業ってすてきだよと言えるよう、地域の未利用資源を魅力ある宝物にしていきたい」と話している。