伝統の淡嶋神社に若き風  豊輝さんが権禰宜に就任

豊輝さんと母の智子宮司
豊輝さんと母の智子宮司

雛流しの神事で知られる和歌山市加太の淡嶋神社に今春、國學院大學を卒業した前田豊輝さん(22)が、4月1日付で権禰宜(ごんねぎ)として就任し、社に新しい活気が加わった。同神社では、前宮司で父の光穂さんの逝去を受け、妻の智子さんが創建1700年の中で初となる女性宮司として社を守ってきた。母が手探りで切り開いた「祈りの道」を、息子・豊輝さんが心強いパートナーとして共に歩み始めた。

10歳で固めた決意

豊輝さんは5歳の頃から境内の掃除や仕事を手伝い、長男として「いつか自分がこの場所を守る」という未来を、ごく自然なこととして受け入れて育った。

その意識が揺るぎない覚悟に変わったのは10歳の時。光穂さんに「どうすれば跡を継げるか」聞き、神職への進路や伝統を守る心構えを教わった。子ども心に、自身の将来を社にささげる決意をしたという。

そのわずか4年後、光穂さんは病により帰らぬ人となる。14歳で直面した早過ぎる別れ。悲しみの中で、慣れない神職の勤めに奔走し、懸命に社を守り抜こうとする智子さんの姿が、豊輝さんの目に焼き付いた。「自分が早くしっかりして、母を支えなければならない」。父から託された思いは、この時、母を助けたいという強い決意へと変わった。

故郷離れて知る魅力

大学生活を東京で過ごした豊輝さん。國學院大學で神道を専門的に学ぶ中で、都会での暮らしを経てあらためて地元の価値を再発見したという。「加太は自然豊かで、人も優しいいい町」。

客観的に故郷を見つめた4年間を終え、淡嶋神社へと戻った。

「覚えることがいっぱいある」という現在は、朝夕の勤めや人形のおはらいといった日々の業務に邁進している。

中学・高校のバスケットボール部で鍛えた体力を生かし、境内の清掃や神事の準備など、精力的に動く毎日。「まずは一年を通した祭事や準備の流れをしっかりと覚えたい」と謙虚に語る姿を、智子さんは温かく見守っている。

未来へのバトン

現在は日々の奉仕に努めるとともに、光穂さんが願っていた「人々が楽しく集まりにぎわう場所にしたい」という遺志を受け継ぎ、若い感性で「また来たくなる神社」を目指した新たな企画を模索している。

光穂さんの逝去から10年余り。智子さんは女性宮司として社の重責を一手に担いながら、母として豊輝さんを次代の守り手へと育てるために、必死の思いで駆け抜けてきた。

豊輝さんの奉職により、ようやく訪れた「二人三脚」の日々。智子宮司は「相談できる相手ができたことが本当にうれしい」と、真摯(しんし)に勤めに励む頼もしい息子の姿に目を細める。

豊輝さんは「まだ一歩を踏み出したばかりですが、早く一人前になって母を助け、加太のために尽くしたい。地域の皆さんに温かく見守っていただければうれしいです」と話している。