島村逢紅が求めた「黒」 近代美術館で写真展
日本写真史にも名を残す和歌山市の写真家、島村逢紅(本名・安三郎、1890―1944)の作品を紹介する展覧会が、23日から12月19日まで、同市吹上の県立近代美術館で開かれる。県誕生150年を記念し、「紀の国わかやま文化祭2021」と連携して開く特別展「和歌山の近現代美術の精華」の第2部「島村逢紅と日本の近代写真」で展示。同館で写真を主にした展覧会は初めて。(画像は同館提供)
逢紅は同市の酒造業などを営む家に生まれた。中学時代から美術雑誌『みづゑ』に投稿して日本水彩画会会友になるなど、美術に興味を持ち活動。家業を継ぐために美術学校への進学は断念したものの、絵画とほぼ同時期に始めた写真は、生涯にわたる表現活動となった。
1912年、同市に写真クラブ「木国(もっこく)写友会」を設立。同会は現在も活動するクラブとしては日本で3番目に歴史があるとされている。多彩な写真家を育成し、和歌山の写真界をけん引。74年度の県文化奨励賞を受けている。
雑誌の公募展や展覧会で入賞し、逢紅の名は全国に知られることに。1930年代には、福原信三が設立した「日本写真会」の同人となり、39年に資生堂ギャラリーで初めての個展を開催。絵画的な芸術写真から、写真でしかできない表現を目指した「新興写真」へと動向が移り変わる時代に、その独自の漆黒と階調表現は、福原路草と対比して「路草の白、逢紅の黒」と高く評価された。
作品は東京都写真美術館にも収蔵され、2011年に同館で開かれた「芸術写真の精華」でも紹介された。
その中の一つ、椿が空間にくっきりと浮かび上がった作品は「凄烈な緊張感と静寂が漂っており、対象を凝視する彼特有の美的世界が広がっている」と高く評された。
今回の展覧会では、1910年代から40年代までの逢紅の作品約200点の他、交流のあった同時代を代表する写真家の作品50点を紹介。福原信三や福原路草、野島康三、安井仲治、淵上白陽、「木国写友会」のメンバーだった島村嫰葉、島村紫陽、江本綾生、同郷の寺中美一や保田龍門、荻原守衛の作品も並ぶ。
逢紅の資料を整理し、準備を進めてきた県立近代美術館の奥村一郎教育普及課長は「撮影日記のように残された記録からは、さまざまな試みをしていたことが見えてくる。世に出ている逢紅の作品はごくわずかで、ほとんど知られていなかった。近代写真史に大きな仕事を残した逢紅が今回の展覧会で再評価され、新たな見方が生まれる始まりになるのでは」と期待している。
午前9時半~午後5時。11月24日に一部展示替えをする。観観料1000円、大学生600円。高校生以下や65歳以上などは無料。月曜休館。問い合わせは同館(℡073・436・8690)。