神坂次郎さん死去 特攻や郷土の偉人描く

和歌山市の小説家、神坂次郎さん(こうさか・じろう、本名=中西久夫〈なかにし・ひさお〉)が6日、老衰のため95歳で死去した。葬儀は近親者で営まれた。

神坂さんは1927年3月、同市生まれ。43年、16歳で東京陸軍航空学校に入校し、知覧特攻基地(鹿児島)を経て、小牧基地(愛知)で敗戦を迎えた。

戦後は、同市で土木技師として働く傍ら小説を書き始め、82年『黒潮の岸辺』で日本文芸大賞、87年『縛られた巨人―南方熊楠の生涯―』で大衆文学研究賞を受賞。92年には天皇陛下(当時は皇太子)に自著『熊野御幸』を2時間半にわたって御進講した。90年県文化賞、2002年南方熊楠賞、03年長谷川伸賞を受賞。

郷土・和歌山出身者を数多く作品に取り上げ、南方熊楠らの生涯を世に知らしめた他、紀州雑賀衆をテーマとした『海の伽倻琴』では、豊臣秀吉の朝鮮出兵に参加したが、義のない戦争だとして反旗を翻し、李王朝の将軍となった沙也可を雑賀孫市郎とする説を描いた。

特攻基地で同年代の多くの兵士を見送った体験から、「記憶を少しでも記録に残さなくては。あがいてでも残さなくては」と語り、特攻隊員たちを描いた鎮魂の作品『今日われ生きてあり』シリーズを書き続けた。同市の県護国神社境内には、作家の山岡荘八に揮毫を依頼した

「空」の文字を刻んだ慰霊碑を建立し、全ての航空兵の鎮魂を続けていた。

「空」の慰霊碑の前に立つ神坂さん(2009年4月)

「空」の慰霊碑の前に立つ神坂さん㊥(2009年4月)