人力車で日本一周 上田樹生さん思い出語る

3月5日に人力車を引いて日本を一周する旅から帰ってきた、和歌山市内原の上田樹生(しゅう)さん(22)が269日の旅を振り返り、「人との交流や助けがなかったら日本一周は達成できなかった」と思いを話した。

上田さんが日本一周の旅で目標に掲げたことは、「47都道府県に行く」こと。昨年6月10日に和歌山を出発し、まずは日本列島の北を回った。どの道を進み、一日にどのくらいの距離を走るかは、その日に決めた。

人力車を引いて大変だったことは「地図を見ているだけでは分からない、人力車が通れない所もあって、回り道したり戻ったりが大変だった。日本って峠が多いなと感じた」と笑顔で話す。パンクしたりスポークが折れたりするアクシデントもあり、苦労も多かったという。

「だけど、人力車で良かったなって、めちゃめちゃ思う」といい、「人力車で旅をしているから声を掛けてもらえた。人力車がなかったら、これまでの人たちに出会えていないのかと思うと怖くなる」と、旅の供に選んだ、“相棒”に感謝した。

ある日、上田さんは人力車の部品を紛失していることに気が付き、そのことをSNSで発信。ガンプ鈴木さんという人が「これはまずいぞ」と連絡をくれ、事なきを得たそう。

ガンプ鈴木さんは、東京浅草で人力車をひき、さらには人力車でアメリカを横断する、知る人ぞ知る旅人。人力車で旅をする上田さんをSNSで知り、ずっと見守っていたのだとか。「人力車がつなぎ合わせてくれた縁ですね。その後大阪で会うことができて、お礼を言うことができた」という。

人力車にはたくさんの人からのメッセージ

人力車にはたくさんの人からのメッセージ


上田さんが「きょうは40㌔進む」と決めて走った北海道富良野周辺。しかし、その日は一日中雨が降り、徐々に体力的にもつらくなり、「きょうはもう20㌔くらいでやめようか」と思ったという。「いや、やっぱり走り切ろう」と奮起し、40㌔を完走した。

夕方、コインランドリーに立ち寄り、濡れた服を乾燥機に。その様子を偶然管理人が見掛け、上田さんが日本一周していることを知ったそう。「泊まる所がないならうちに泊まって」と声を掛けてもらい、ご飯も風呂も提供してくれたという。上田さんは「あー、僕は、この出会いのために走ったのかな」と深く心に染みたという。

旅を振り返り笑顔の上田さん

旅を振り返り笑顔の上田さん


クリスマス前に九州を旅していた時は「これまでたくさんの人に優しさをもらったので、何か笑顔になるような恩返しができれば」と、地元の人の協力もと、長崎県壱岐島へ行き、子どもたちの思い出に残ることをしようと計画。サンタの格好で島の子どもたちにプレゼントを渡し、クリスマスパーティーを開いた。「人力車を初めて見た子がほとんどで、みんな喜んでくれた」と心に残るエピソードを話す。

上田さんは、旅に出る前から、自分の労力や時間、お金を惜しまず、誰かのために使う生き方をしたいと強く思っていたといい、「旅に出て、その気持ちがより強くなった。自分が目指す方向が間違ってなかった」と、思いが明確になったという。

今後は、ことしの9月ごろオーストラリアに行くことを決めたという。人や文化に触れ英語力を身に付け、南米も旅したいと計画している。「新たな挑戦に向け、頑張ります」と目を輝かせる。

壱岐島での出会った人たちとクリスマスパーティーを開催(上田さん提供)

壱岐島での出会った人たちとクリスマスパーティーを開催(上田さん提供)