乙姫が龍灯献上行脚 紀三井寺で4年ぶり

龍宮の乙姫が龍灯をささげて来山するという紀三井寺(和歌山市)の伝説を再現する「龍宮乙姫龍灯献上行脚」が9日、コロナ禍での中止を経て、4年ぶりに行われた。毎年の同日、一日の参詣で千日分の功徳が得られるという「千日詣」の由来となった逸話で、功徳を授かろうと訪れた多くの参拝者は、美しく、幻想的な乙姫一行の行列と舞に見入った。

1253年前の奈良時代、唐から日本へと渡り、紀三井寺を開山した為光上人が大般若経を写経した際、乙姫が現れて観音霊場の建立を喜び、毎年、海の中でも消えない龍灯を献上しに、龍宮から訪れると話したと伝えられている。

「龍宮乙姫龍灯献上行脚」は、この伝説をより広く知ってもらい、地域活性化につなげようと、2017年に初めて実施。18年には実行委員会を立ち上げ、継続してきたが、コロナ禍により20~22年は中止を余儀なくされた。

今回は4年ぶりの出演者オーディションで、四代目乙姫役に県立医科大学医学部3年の土山夏未さん(20)が決まり、乙姫と共に行脚する女官役4人、一行を迎える巫女(みこ)役2人が選ばれた。

「千日詣」当日の午後8時、日が暮れた境内に「龍宮乙姫、龍灯献上、一日千日、福徳招来!」との使者の口上が響くと、龍灯を手に、あでやかな衣装に身を包んだ乙姫と女官らが登場。巨大な龍のオブジェが勇壮に体をくねらせながら一行を先導し、巫女たちが出迎えた。

幻想的な音楽と光に包まれた境内の広場で、乙姫と女官たちは、紫や黄色の鮮やかな布と扇子を翻して舞を披露。広場の舞台で乙姫から龍灯を受け取った前田泰道貫主は「千日功徳の龍灯、確かに受納つかまつらん。善哉(よきかな)善哉、結縁の衆生、厄難解除、福徳招来の龍灯、間近で結縁幸いなり。千日分の所願成就を祈られたし」と厳かに述べた。

舞を終えた乙姫一行は、「さても乙姫、観音宝前にて安らいたまへ」との前田貫主の案内で、本堂へとゆっくりと歩いた。参道の周囲には多くの参拝者がカメラやスマートフォンを手に集まり、伝承を今によみがえらせる乙姫たちの姿を撮影し、大きな拍手を送っていた。

最後に、手にすると福が授かるといわれる福棒投げが広場で行われ、千日詣をにぎやかに締めくくった。

乙姫の大役を終えた土山さんは「肩の荷が下りて、ホッとした気持ちです。存分に練習の成果を発揮した演技が届けられたと思います。こうしたイベントを機会に、たくさんの人に見に来ていただいて、紀三井寺の乙姫伝説を知っていただけたらうれしい」と話していた。

 

乙姫㊧と龍灯を受け取った前田貫主