浮皮がなく高糖度「石地温州」

前号では、中生(なかて)の品種ながら貯蔵のうえで出荷される「向山(むかいやま)温州」を取り上げた。同様に扱われる希少な品種が他にもある。今週は「石地温州」を紹介したい。
石地温州は杉山温州の苗木から樹勢に優れたものを発見し育成されたもの。広島県で行われた優良系統を育成する事業で果実特性が調査され、2000年に品種登録。以降、栽培が広がっている。名前は、発見者の苗字に由来する。
大きな特徴は、果実に浮皮が発生しづらいこと。降雨が多いシーズンは、果皮と果肉が分離する浮皮症が起き、輸送性の低下や腐敗のしやすさから価格が下落する要因となるもの。石地温州は根が浅く、横に広がる特徴があるため、水分の吸収が少ない。それが、浮皮の抑制や糖度の向上に貢献しているとされる。
根が浅いことから台風などの強風にあおられ転倒することが多く、また、収穫が隔年となりがちで、1本あたりの収穫量が多くない。
他の品種と比べ開花が早いが収穫期は11月下旬から12月下旬と中生であることから、果実が樹上で熟す期間が長く、高糖度で濃厚な味わいが実現する。果実のサイズは100㌘程度とやや小ぶりのものが多い。糖度は13度から15度程度と甘く、クエン酸の含有量は1%以下となることから、酸味は少なめで甘味が先行する。
農水省統計(21年産)によると全国における栽培面積は763㌶で、みかんの中では10位以内に入る。主な生産地は、広島県(269㌶)、愛媛県(131㌶)、和歌山県(91㌶)となっている。
一般的には年末にかけて出荷されるが、一部は貯蔵され1月中旬ごろから出回る。蔵出しみかんに見られる浮皮が少なく、濃い甘さが特徴の石地温州。貯蔵されるケースはまれとみられるので、見つけた時はぜひ食べてみてほしい。
(次田尚弘/和歌山市)