地域の気候に適した「八朔」の栽培

紀北エリアで栽培された「八朔」
紀北エリアで栽培された「八朔」

前号では、八朔に含まれる苦み成分で漢方薬にも活用される「ナリンギン」というポリフェノールの一種を取り上げた。全国第1位の生産量を誇る和歌山県。主に紀北と紀中で栽培されているが、地域によって収穫期が異なるという。

現在は紀北エリアの紀の川市、かつらぎ町、和歌山市、紀中エリアの有田川町、日高川町、由良町が主な産地となっている。

栽培時の八朔の特徴として、霜が降りるほどの低温になると、果実から水分が抜け「す上がり」が起きてパサパサになり、苦みが増すとされる。そのため、霜が降りる紀北エリアでは霜が降り始める12月下旬ごろから収穫が行われる。収穫直後の八朔は酸味が強いため、涼しいところで1~2カ月の間、熟成させることにより、酸味が抑えられる。

一方、温暖で霜の影響が少ない紀中エリアでは冬の期間も樹上に果実をつけたまま熟成させることができ、さらにまろやかな食味が期待できる。これらの八朔は「木成り八朔」「さつき八朔」と名付けられ、3月から4月にかけて出荷される。

今の時期に青果店で販売が始まっている八朔は、紀北エリアで栽培されたものが多く、桜の季節の前後で出回るものや、前述の名が付けられ販売されているものは紀中エリアで栽培されたものが多いといえよう。

わずか数十㌔しか離れていないとはいえ、紀の川筋と呼ばれ冬季の朝は冷え込みが厳しい紀北エリアと、黒潮の影響を受け冬でも温暖な紀中エリアで、収穫時期や熟成の方法、名称までもが異なるという、地域性の強い果実。

同じ和歌山県産でも生産されたエリアや市町村でその味わいは変わってくる。産直市場などではタグに生産地域が印字されていることも。ことしの冬は生産地にこだわって、八朔を味わってみてほしい。(次田尚弘/和歌山市)