桑島啓司さんが300句を一冊に 本紙俳壇の選者

本紙「しんぽう文芸」俳壇の選者を務める和歌山市の桑島啓司さん(84)が自選句をまとめた一冊を、俳人協会から刊行した。十代で俳句に出合った桑島さんが、20歳以降70代後半に至るまでに詠んだ300句を収録。歩んできた句作の道を振り返り「俳句に支えられてきた。これからも健康を保ちながら、自分が生きている証しを残していければ」と話している。
同協会の「自註現代俳句シリーズ」として発行。句を詠んだ背景や解説を添えており「皆さんから2回、3回と読み返したという感想をもらい、案外好評でうれしい限りです」と桑島さん。
徳島県鳴門市出身。住友金属工業(現・日本製鉄)に勤務する傍ら、山口誓子主宰の「天狼」、鷹羽狩行主宰の「狩」に入会。現在は俳人協会評議員、和歌山俳句作家協会会長、俳句結社「滝山」主宰。
34年勤めた住金では、起重機の運転士として港湾荷役に従事。忙しい毎日にも「岸壁からは太陽が見え、沖には入道雲。大自然と親しむことができ、俳句を作るのに最高でした」と振り返る。
ビアガーデン安全帽の置場なし(1967年作)
仕事をしていた頃は労働の句が中心。ビールを飲むより俳句が作りたくて会社帰りにビアガーデンに行ったほど。
銃眼を覗けばワッと芽木の声(1966年作)
芽吹きの季節、和歌山城の銃眼から下を眺めていると、まるで戦国の武将が攻めてくるかのように、芽木の声が聞こえて。
感嘆の声に崩れて大氷河(1982年作)
「狩」七周年記念で、鷹羽氏や仲間と共にカナディアンロッキーへ。氷が崩れ落ちる様子に感動して生まれた句。
団栗のころがる止まるところまで(2015年作)
紀伊風土記の丘で、どんぐりが転がる様子から。人生を重ね〈いつか必ず止まるのだから、転げているとよい。どこかで止まって芽を出してくる〉
写生に忠実に、目で見た景色の中に感動を託してきた。句材に困ることはないといい、丹念な観察眼が光る。桑島さんは「五感を写し取るのが俳人の仕事。俳句は日記のようなもので、これからも訓練を重ねながら楽しみたい」と話している。
句集を希望する人は、はがきに住所、名前、電話番号を明記し、滝山俳句会(〒640―8425和歌山市松江北4の4の24)へ。