クマは「本来のすみか」へ 女性狩猟者らパトロール

「排除ではなく、すみ分けを」――。全国でクマによる被害が深刻となり、和歌山県海南市内でもツキノワグマの目撃情報が相次ぐ中、女性狩猟者らが地域の見守り活動に立ち上がった。命を奪う駆除ではなく、音や声で人間社会との境界線を示し、野生動物を山へ帰す持続可能な共生の形を目指してボランティアでパトロールを続けている。
里山保全が原点
活動しているのは、2024年に結成された「女性狩猟会里山アップサイクル」。和歌山市の溝部名緒子さんを中心に、放置しておくと荒れてしまう里山の整備や、伐採した竹を商品に生まれ変わらせる活動を行っている。
狩猟歴10年を超える溝部さんは、日頃から農家の困り事に耳を傾けてきた。放置竹林によって実のなる木が枯れ、動物たちが餌を求めて人里へ下りてくる悪循環を目の当たりにし「みんなの里山をみんなですてきにしたい」との思いで環境保全活動を続けている。今回のクマ対策も、その里山を守る活動の延長線上にある。
子グマの習性知る
海南市によると、5月5日に下津町橋本地内のパイロット農道周辺や、冷水地内の熊野古道でクマが目撃された。市は出没地域に捕獲檻を設置し注意を呼びかけているが、5月9日以降は新たな目撃情報はない。
目撃されたクマは年齢1歳半ほどで親離れしたばかりの子グマとみられる。溝部さんは「子グマは好奇心が旺盛で、人間社会の仕組みをまだ知らないだけ。人里に依存して問題個体となれば最終的に駆除を選択せざるを得なくなるからこそ、今の段階で大声や音によって『ここは危険な場所だ』と学習させ、本来の住処(すみか)へ引き返させることが最善の対策になる」と、野生動物の習性にのっとった初期対応の重要性を話す。
音で引く境界線
同会は5、6人のメンバーが交代し、昼間に加茂川小学校周辺の山裾などを巡回。車を運転しながら目を光らせ、猟犬の鳴き声をスピーカーで流したり、大声を出したりして、クマがまちに下りてこないよう人間との境界線を作っている。
溝部さんは「地域で犬の鳴き声や大きな音が響くが、パトロールの音だと住民の皆さんに知って安心してもらえたら。そして山に入る際は、ぜひ住民の皆さんもラジオや大声で自分の存在をアピールしてほしい」と、地域一丸となった「音による自衛」を呼びかける。
緩衝帯の整備重要
野生動物との適切な距離を保つため、溝部さんは音によるパトロールだけでなく、将来的にはハード面の対策も必要だと指摘する。
山林と人里の境界線にあたるエリアの草刈りなどを行い、見通しの良い「緩衝帯」を作ることで、互いの生活圏への不用意な侵入を防ぐ仕組みづくりを掲げている。
こうした持続可能な対策を進めるため、溝部さんは神出政巳海南市長とも面会し、住民への正確な情報提供や行政による活動依頼などの連携を要望した。
「個人や一過性の活動では終わらせたくない」という溝部さん。現状はボランティアとしての巡回のため、費用面も含めて限界がある。今後は行政が主導して巡回のルール化や補助の仕組みを整えるとともに、地域全体で命に向き合うため、見守り活動や情報共有に協力・賛同してくれる人や企業が増えることを願い、協力を呼びかけている。
問い合わせは同会(メールwhunterup@gmail.com)。

