夏みかんを全国の小学校へ 紀の川市の農業法人

和歌山県紀の川市粉河の農業法人有限会社柑香園(観音山フルーツガーデン)は、小学4年生の国語教材「白いぼうし」に登場する夏みかんを、全国の学校に届けるプロジェクトに取り組んでいる。本物の香りと味を子どもたちに体験してほしいという願いから2008年に始まった活動は、今や600校以上の学校へと広がっている。
児童文学作家のあまんきみこさん作「白いぼうし」は、タクシー運転手の松井さんが拾った不思議なぼうしをめぐる物語。作中で、ぼうしから漂う「夏みかんの匂い」は、物語の清涼感や世界観を決定づける重要な要素。授業でこの作品を扱う際、「子どもたちに本物の夏みかんの匂いをかがせてあげたいが、近所や市場ではどこを探しても手に入らない」という教員たちの声が、活動のきっかけとなった。
近年、食卓では甘味の強い果実が好まれ、酸味の強い夏みかんの需要は減り、栽培する農家は減少している。9代目の児玉芳典社長(49)は「一般的には甘夏と混同されがちだが、夏みかんは果皮がより黄色く、食べた時の独特な酸味が際立つ。甘夏とは別物の昔ながらのかんきつ」と話す。
児玉社長は、この貴重な夏の味を求める根強いファンの思いに応える形で、長年栽培を続けてきた。
天保五年(1834)創業の同園は、年間約50種類の果物を育てている。児玉社長は「『食』と『教育』をつなぐもの」として、この活動を大切に守り続けてきた。2008年に3校へ届けることから始まり、今では多くの支援者から寄せられる寄付金が送料を支えることで、各地の学校へ無償で届けられている。
「この地で育った夏みかんが、子どもたちの心に残ってほしい。和歌山には誇れるフルーツがあることを、未来を担う子どもたちに届けたいんです」と児玉社長。
全国の子どもたちからは「物語から本当に匂いがしてきた!」「すっぱくて、でもさわやかな味がした」「お家の人にも食べさせてあげたい」「こんなにきれいな色なんだね」といった感想やお礼の手紙が寄せられている。中には、夏みかんをきっかけに紀の川市の存在を知り、実際に家族で同園を訪れた子どももいるという。
児玉社長は「この活動を通じて、子どもたちが物語の世界だけでなく、産地の風景や農業の大切さにも目を向けてくれるよう、バトンをつないでいきたい」と話している。


