紀州備長炭と深い関わり  県の木「ウバメガシ」

 前号まで2週に渡り「コウヤマキ」の歴史を紹介した。県を代表し全国で親しまれる木は他にもある。県の木に指定されている「ウバメガシ」だ。

 「ウバメガシ」はブナ科の常緑樹で神奈川県以西の各地に分布し県内では紀南地方に多く見られる。良質の炭で有名な「紀州備長炭」の原料として皆さんもご存知だろう。

 紀州備長炭は田辺市やみなべ町、日高川町を中心に年間約1700㌧が生産され、白炭としては日本一のシェアを誇る。製炭技術は1700年頃に確立されたという。備長炭の名は、当時、田辺で炭問屋を経営していた「備中屋長左衛門」という商人に由来する。1730年頃、江戸日本橋の問屋へ出荷を始め、火持ちが良く安定した火力によりムラなく焼けることから瞬く間に人気となり商人の名にちなみ「備長炭」と呼ばれるようになったという。

 備長炭は樹齢20年から40年のウバメガシの原木を用い、職人の手で約15日かけ、さまざまな工程と絶妙な判断により製炭。300年以上前から受け継がれてきた製炭技術は、昭和49年に県の無形民俗文化財に指定されている。

 諸説あるが、ウバメガシの名の由来は「ウマメガシ(馬目樫)」にあり、葉の形が馬の目に似ていることからだといわれている。江戸で備長炭が広まったとされる1730年頃といえば徳川吉宗の時代。何とも和歌山らしい名の由来であると感じられる。また、当時の江戸では将軍様がかつて治めていた紀州の特産物として注目されたのかもしれない。

 県の木に指定されたのは昭和41年。県民による投票により決められたという。世界的にも有名となった紀州備長炭。近年では、消臭や除湿効果、水や空気の浄化作用を活用した商品や健康食品、副産物の木酢液など燃料以外の効能にも期待されている。今後も県が誇る特産物として長く愛され続けてほしい。
   (次田尚弘/和歌山)