励ましの野菜200回 震災避難の佐藤さんに
毎週月曜日の朝、東日本大震災後に福島県富岡町から和歌山市内に避難してきた佐藤勉さん(70)のもとには、決まって電話が入る。「少ないけど、きょうも野菜送ったよ」――送り主は紀の川市の農家の男性(79)。いつもの場所に届くのは、段ボールいっぱいの新鮮な野菜や果物。そんなやりとりはもう、200回になった。
7月下旬、届けられた箱には、カボチャやアスパラガス、ナスやトマト、桃など、十数種類が詰まっていた。「避難した和歌山で不自由な思いをしないように」と、震災から4年5カ月近くがたついまも続く支援に、佐藤さんは「忘れずにいてくれる、その気持ちが何よりうれしい」と話す。
佐藤さんは福島県剣道道場連盟の会長を務め、大勢の教え子もいたが、原発事故により、その解体を余儀なくされた。男性もかつて剣道の指導者であったことから、佐藤さんの力になりたいと平成23年6月から支援を続けている。
「暑くて大変な中、丹精込めて育てた野菜を頂戴していることは、感謝に堪えません」と、10歳年上の男性の体を気遣い、筆まめな佐藤さんは毎回欠かさずお礼のはがきを送っている。
感謝の思いをしたためるのは、和歌山に移り住んでから親しくなった画家の中尾安希さんが描いた和歌山城や和歌浦の風景を描いた絵はがき。あるときは「中尾さんのデッサン用に」と男性からザクロが届き、それを題材に描いたはがきで礼状を出したこともある。
男性は「福島の農業が厳しい状況にある中、和歌山の恵まれた土地で農業ができるのは幸せなこと。野菜を食べて喜んでもらえれば何より。体が続く限り、佐藤さんに作った野菜を食べていただきたい」と話している。
佐藤さんは和歌山に来てからママさん剣道クラブを立ち上げ、現在は和歌山市や海南市の3教室で子どもたちに剣道を指導する毎日。ふるさとの自宅は今も居住困難区域に指定されており「福島への思いは強いが、将来のことを決めかねているのが正直なところ。関東にいる次男が『一緒に住まないか』と言ってくれるが、和歌山で剣道を通じたつながりができ迷いもある」。
避難生活が長引き、揺れる思いの日々を、男性からの野菜に勇気づけられている。