和佐さんの思い継ぎ がん検診啓発演奏会

チャリティーコンサート「今つなぐ『いのち』のバトン」が9日、和歌山市西高松の県立図書館メディア・アート・ホールで開かれた。がんで闘病し、ピアノで出演を予定していた紀の川市貴志川町の和佐友香さんが演奏会を目前に他界。ステージに立つことはかなわなかったが、音楽仲間が和佐さんの遺志を引き継ぎ、命のメッセージを温かい演奏に乗せて届けた。

演奏会は、海南市名高のミュージックエージェンシー・リベラ(赤在依美代表)が、がん検診の啓発などを目的に、音楽仲間に呼び掛けて開いた。ピンクリボン運動in和歌山、NPO法人いきいき和歌山がんサポート、和歌山グリーフ専門士の会の3団体が後援。ステージは桜の花で彩られ、約170人が春の訪れを感じながら聴き入った。

赤在代表によると、和佐さんが演奏会出演を決めた1月は、抗がん剤の治療中ながら元気で、当日に向けて体調を整え、ベストな状態で臨もうと前向きに治療に励んでいたという。しかし容態が急変し、治療のかいなく3月15日に57歳で永眠した。

1部では、夫をがんで亡くし、全国各地で命に関する講演を行う海南市の岩崎順子さんが講話。岩崎さんは和佐さんの小中学校の同級生でもあり、この日、久し振りに会えるのを楽しみにしていたという。

岩崎さんは自身の体験を振り返りながら「死は悲しいけれど、生きている時にその人が言ってくれた言葉や姿が、私たちにバトンを渡してくれている。生きる力や思いやりの心に変えて、別の方に伝えていただければ」とメッセージ。「大切な人を思いながら聴いてください」と、グロッケン(鉄琴)で「家路」を演奏した。

続くコンサートでは、肺がんを患いながら音楽活動を続けるテノール歌手の雀部宜延さん、ソプラノ歌手の伊藤和子さんが出演。山中睦子さんのピアノ伴奏のもと、二重唱や独唱で「彼方の光」「たぶん愛は」「この道」「瑠璃色の地球」などを、思いを込めて届けた。

2部では、NHK特集ドラマ「クロスロード」で音楽を担当するなど活躍する、ピアニストの中野雅子さんが情熱的なクラシックジャズのステージで魅了した。

赤在代表(55)は「大きな悲しみに戸惑いもありましたが、周りの方に支えられ、心のサポートの大切さをあらためて知りました。病気になっても、サポートしてくれる団体や、ほっとできる場があることを多くの人に知ってもらいたい。今を大切に、精いっぱい生きることを皆さんにお伝えできたのであればうれしいです」と話していた。

演奏会には和佐さんの家族も駆け付け、息子の裕一郎さん(27)は「僕も母からもらった命のバトンを受け取ったんだと、強く感じられた一日でした。きょうという日のおかげで、さらに前向きに頑張っていけそうです」と話していた。

コンサートの収益の一部は、がん検診の啓発やサポートをする団体の活動に充てられる。

美しい歌声を響かせる雀部さん㊨と伊藤さん

美しい歌声を響かせる雀部さん㊨と伊藤さん