障害者福祉に尽力 岩橋正純さんの歩み出版

 和歌山県和歌山市の社会福祉法人つわぶき会・哲人会の前理事長で、障害者福祉の向上に努め2014年に82歳で亡くなった岩橋正純さんの生涯をつづった『子を思う親の心を積み重ねて』が24日、出版される。編著を担当した作家の髙田朋男さん(62)は「和歌山の障害者福祉への功績は計り知れず、貴重な資料になるはず」と話している。25日午後3時から同市松江向鵜ノ島のTSUTAYA WAYガーデンパーク和歌山店で出版記念トークショーを開く。

 岩橋さんが障害児支援に関わるようになったのは、1960年、同会現理事長で長男の秀樹さん(58)がポリオ(小児まひ)にかかり、後遺症で足に障害が残ったことがきっかけだった。

 全ての障害のある子を持つ親が団結して子どもを支えようと、64年に親の会「市心身障害児父母の会」(現市障害児者父母の会)を結成。署名活動を重ね、73年に県内初の養護学校、紀北養護学校(現紀北支援学校)を開校させた。83年、どんな環境でも強く育つツワブキの花にちなみ、「社会福祉法人つわぶき会」を設立。95年には藍綬褒章、2011年には旭日双光章を受章した。

 岩橋さんの志を継承し、後世に伝えようと書籍化の声が上がり、髙田さんが関係者に聞き取りし、生い立ちや逸話をまとめた。

 ポリオの新薬と予防ワクチンがソ連(当時)で開発されたと知り、署名活動に奔走。同国に嘆願書を送るなど活動が実り、全国に先駆けて和歌山で予防ワクチンが導入されたこと、念願だった障害者総合施設「綜成苑」竣工式後、子どもと引き離されるつらさから泣き暮れる親もあったが、岩橋さんは子や家族の将来を考え、門の鍵を閉めて対応したことなどが紹介されている。

 秀樹さんは「親父から『足が悪くてかわいそう』と言われたことは一度もなかった。愛情深く、いつも『お前は足が悪いんやから、一生付き合っていかなあかん』と悲観せずに強く生きていくことを教わりました」と振り返る。

 髙田さんは岩橋さんの障害者福祉に懸ける熱い思いに、感動で涙があふれたといい「人としての生き方を学び、終生忘れることのできない一冊になった。他の団体にも知ってもらい、今後の障害福祉の発展に役立ててもらいたい」と話す。

 また、市障害児者父母の会副会長の堀内正次さん(81)は「強いリーダーシップを持ち、常に前を向いて突き進んだ人。『のどを潤すとき、井戸を掘った人のことを忘れてはいけない』といつも口にしていました。私たちの歩みを知ってもらい、障害児の親のことを少しでも理解してもらえれば」と話している。

 最近の障害者を巡る出来事で、秀樹さんが心を痛めたことがある。2016年に起こった相模原障害者施設殺傷事件で、少なからず犯人に同調する意見があったこと。「命を持って生まれてきた限り、その子には役目がある。障害があっても社会で生きていくことを認めてもらいたい」

 高齢者や障害者を排除する社会に向かいかねないことに危機感もあり「人同士支え合うのが高度な人間社会では。そのことを振り返れる一冊になれば」と願う。

 物語は5章で構成。秀樹さんも父への思いをつづり、世耕弘成経済産業大臣や企業経営者らを交えた座談会、交流のあった福祉関係者や本紙の津村尚志会長らが寄稿し、岩橋さんをしのんでいる。

 四六判、379㌻。1296円(税込み)。宮脇書店和歌山店、帯伊書店などで販売。問い合わせは、つわぶき会(℡073・431・7000)。

岩橋さんの銅像を囲んで秀樹さん、長女の加乃子さん、髙田さん、堀内さん(右から)

岩橋さんの銅像を囲んで秀樹さん、長女の加乃子さん、髙田さん、堀内さん(右から)