重砲兵連隊の眠る墓地 20日深山で慰霊祭
和歌山県和歌山市加太の森林公園内にある「旧深山陸軍墓地」。日清戦争以降、紀淡海峡防衛のため同地に配備された旧陸軍の深山重砲兵連隊の兵士たちが埋葬されているとされる。市民にはほとんど知られていないこの場所を後世に伝えようと、旧陸軍兵や元自衛隊員らでつくる深山会(旧陸軍墓地を守る会)が整備を進め、昨年初めて慰霊祭を実施。ことしも20日午前10時から営む。同会は「命を懸けて平和の礎を築いてくれた英霊を顕彰し、不戦の礎として未来に伝えていきたい」と話している。
「旧深山陸軍墓地」は、同地に重砲兵連隊や陸軍の病院が創設されたことから、兵役中の病死や公傷死者らの墓地として日露戦争後に造営され、約50基の墓石が並ぶ。墓碑銘から、兵士の出身地は和歌山や大阪、京都や滋賀など近畿圏中心であることが分かる。
かつては遺族会「深山会」が墓地を管理していたが、高齢化により活動存続が困難に。墓石が倒れたり、草木が生い茂ったりしてほとんど手付かずの状態だったが、昨年からは元陸軍将校や自衛隊の元幹部らに市議会議員も加わったメンバーが名称と活動を引き継ぎ、墓地の整備、維持管理をしている。
同地は、国から借り受けるかたちで和歌山市が管理。年に2度ほど除草や清掃を行っているが、手入れが追いつかない状態。一部では心霊スポットとして知られていることから、同会はイメージ払拭(ふっしょく)のため、ことし1月に桜を植樹するなど整備を進めてきた。
会員の一人で、かつて自衛隊で衛生科の任務を担った同市寺内の岡本啓二さん(86)は「墓地の存在を知った時、このまま放っておけば絶えてしまうという思いを強くした。活動に協力してくれる人が増えればうれしい」と話す。
同会では、近年人気を集める友ヶ島を訪れた際、観光客に併せて立ち寄ってもらえるような場所になるのが理想という。子どもたちの平和教育にも生かしてほしいと願い、吉本昌純会長(61)は「先人が今日の平和を築いてくれたことを忘れず、慰霊することで過去から現在につながる思いを伝えていきたい」と話している。