家康紀行(69)たまり醤油が決め手「ひつまぶし」

 前号では、名古屋めしの代表格である「きしめん」の語源が、紀州徳川家が持参した紀州麺にある可能性を取り上げた。今週は、食べ方が特徴的な「ひつまぶし」を紹介したい。
 ひつまぶしは、ウナギの蒲焼きを短冊状に刻み、おひつに入れたご飯の上に敷き詰めるのが基本の形。茶わんによそい、1杯目はそのまま、2杯目は薬味をちらし、3杯目はお茶漬けにする。一つの料理で3度、おいしさを楽しめる特徴的な料理。
 名古屋で親しまれ現代に受け継がれる理由は、身近に手に入る食材であることに加え、その地域の気候にも関係。岡崎で豆みそ(赤みそ)の醸造工程で生まれる「たまり醤油(じょうゆ)」が、蒲焼きに使われている。たまり醤油は濃いうま味の強さが特徴。これをベースにすることから、ウナギを刻んでも食べ応えがあり、お茶漬けにしてもその風味が消えることがない。
 また、地域特有の夏の蒸し暑さも関係。ウナギは夏バテ対策に有効な栄養食といわれ、さらに、たまり醤油にはナトリウムとマグネシウムが豊富に含まれる。疲労回復にはビタミンと、ナトリウムやマグネシウムなどのミネラルの摂取が有効。それらが凝縮され、食欲が減退したときでも異なる味で小分けに食事ができることもアイデアの一つ。地域ならではの先人の知恵だ。
 たまり醤油は鎌倉時代、紀州湯浅で金山寺味噌を作る工程で見つかったもの。紀州に目を向けると、近海で取れるしらすに梅干しとシソ、たまり醤油をかけた「しらす丼」がある。しらすの栄養に加え、梅干しのクエン酸は殺菌作用があり、シソは胃液の分泌を促すことから、夏バテ対策に効き目があるはず。先人から育まれた地域に根差す栄養食でことしの夏も乗り切りたい。
(次田尚弘/名古屋市)