人間ドラマ描く 『泣くな赤鬼』脚本の上平さん

 夏の全国高校野球選手権和歌山大会の開幕も目前。元高校球児で和歌山市出身のシナリオライター・上平満さん(47)が脚本を手掛けた映画『泣くな赤鬼』が全国の映画館で上映されている。「続けていたことが形になったので、やっとシナリオライターと名乗れるのかな、と思う」と笑う上平さんに、和歌山での思い出やシナリオを学んだきっかけを聞いた。

 上平さんは小学校から野球を始め、県立桐蔭高校では3年生の時に夏の和歌山県大会で準優勝。大学進学後ニューヨークのビンガムトンに留学。現地で日本のコンテンツを扱う会社に就職した。エンターテインメントの制作に関わる仕事をしたかったが、実際にどんなふうに働くのかを考えるとイメージが湧かなかった。

 20代後半の時、NYであった映画関係のイベントで会った日本人プロデューサーに「今から映画の世界に入るには、シナリオライターしかない」と言われ、制作に携わる道筋が見えたとNY在住のまま日本のシナリオセンターの通信課程で勉強を始めた。帰国後も仕事を続けながら通学し、コツコツと書く習慣と技術を学んだ。

 映画原作は重松清の同名小説。かつて「赤鬼」と呼ばれた高校の野球部監督が、末期がんを患う教え子と再会を果たす。彼の余命が半年であることを知った赤鬼はあることを企画する――というストーリー。今作では映画のイメージが湧きやすいようにと企画書より先に話の筋を作るプロット、映画の構成表となる箱書き、そしてシナリオを書いた。「人間のドラマとして書いてほしい」というプロデューサーの言葉から、登場人物を意識して作った。打ち合わせでは自身の練習試合で見たエピソードを取り入れたり、劇中の過去と現在のチームを区別するためアンダーシャツの色を地元高校の野球部と同じにしたり、高校球児だった頃を思い起こすこともあった。

 今も年に数回は和歌山に帰り、関西方面への道中でなじみのある地名が聞こえてくると落ち着くという。上平さんは今後について「今回の映画でそれなりに書けると思ってもらえたのでは。また、他のジャンルも機会があれば書いていきたい」と話した。

フライヤーを手に上平さん

フライヤーを手に上平さん