てんかんと関連の脳機能指標を発見 県立医大
脳の一時的な機能異常により、けいれんや意識消失などの症状を引き起こす「てんかん」について、和歌山県立医科大学は28日、重症度と関連する脳機能の指標を世界で初めて発見したと発表した。脳内各領域の機能ネットワークを健常者と比較し、重症の患者ほど異常値を示す領域が多いことなどが分かった。脳神経外科学講座の中井康雄助教は「てんかん患者の脳の状態を評価できる可能性があり、治療の方針や治療効果の判定などに役立てられるのではないか」と話している。
研究に当たった中井助教、脳神経外科学講座の中尾直之教授、生理学第1講座の金桶吉起教授が同大で記者会見した。
てんかんは、脳の一部の神経細胞が過剰に興奮することで脳の機能異常が一時的に起こり、手足のしびれ、言葉が出ない、光や模様が見えるなどの多様な症状が現れる。
患者は1000人当たり4~8人、国内で推定65~90万人とされ、年間の発病率は10万人当たり45人程度。一生の間に約3%の人が発症するといわれる身近な疾患で、早期の治療が重要とされる。
薬物治療が基本で、70~80%の患者は投薬で発作を抑えることができるが、二つ以上の薬物を使用しても十分に発作を止められない難治性てんかんの場合は、外科手術も選択肢となる。
今回の研究は、外科治療で原因とみられる脳の箇所「焦点」を切除しても発作が治まらない場合があることから、脳内の機能ネットワークに着目した。
脳を388の領域に分け、MRI(磁気共鳴画像)で安静時の血流を調べることで、各領域同士に機能的なネットワークがあるかどうかを確認。金桶教授らが約10年かけて蓄積した健常者582人のデータを基に、95%の人が含まれる「正常範囲」の数値を領域ごとに決定し、難治性てんかん患者25人と比較した。
その結果、患者の方が異常値を示す領域が多く、てんかんを患っている期間が長いほど、また使用している抗てんかん薬の数が多いほど異常な領域の割合は増え、重症度との関連が見られた。
今回の研究は、患者一人ひとりの脳に異常があるかどうかを客観的に評価できるようにした点に大きな意義があり、外科治療を行うかどうかの方針決定など、患者に合った治療法を見いだす研究に道を開いた。
中尾教授は、患者への負担が小さいMRIによる検査である点も重要とし、「何度も検査ができ、治療効果や経過を見るのにも適している」と話す。
金桶教授は「正常範囲の決定には健常者の脳についての膨大なデータが必要。
ボランティアで検査に協力していただいた方々に心から感謝したい」と述べ、今後も検査の精度向上に向け、引き続きデータの蓄積を進める考えを話した。
研究成果をまとめた論文は、イギリスの科学雑誌「サイエンティフィック・レポート」電子版に掲載された。