つつてん踊りを後世に 保存会が記録集制作
和歌山県海南市の黒江地域で江戸時代から踊られている同市指定の無形民俗文化財「つつてん踊り」を次の世代へ伝えるため、つつてん踊り保存会(北村照美会長)は保存記録集を制作。6日に同市の歴史民俗資料館に寄贈した。500㌻以上にわたる資料には、つつてん踊りの歴史と曲の譜面、保存会の経歴と地元の夏まつりや県民俗芸能祭での公演などの記録を掲載している。
漆器生産で栄えていた黒江では、全国の職人や商人とともに芸能文化が取り入れられてきた。つつてん踊りは口三味線の「つーつーてん」という言葉に由来。近江(現在の滋賀)から来た職人が故郷の情景を思う「近江八景」をはじめ、浄瑠璃や歌舞伎を題材にした曲など20以上の曲で、三味線とともに歌われる。細い路地が多い黒江のまちでも踊りやすいように移動が少ない振り付けが伝えられ、地元の下駄市や紀州漆器まつりで踊り継いできた。
保存会では、後継者がおらず消えていく全国の無形文化財が多いことや再興するにも資料が少なく苦労している人の話を聞き、もしつつてん踊りが途絶えても、その後、跡を継ぐ人が現れたときの参考になるようにと、2021年に文化財指定から50年を迎えるのに合わせて資料を準備してきた。ことしは新型コロナウイルス感染症の影響で多くの祭りが中止になり、記録を残そうという意識が一層高まったという。
多くは保存会のメンバーが所有していた資料や文献だが、三味線の譜面は長年口伝で継承されてきたため、北村会長がカセットテープに残った音声を聞いて書き起こしている。北村会長が保存会に入った当初は三味線や歌ができる人がおらず、こつこつと譜面を書き続け、現在も踊りのときには演奏を担当している。
資料は1年かけて集めたもので、探すとまだ見つかる可能性もあるという。北村会長(76)は「昔の人が残してくれた大事な財産。これからも伝えるという思いは変わらない。最近の子どもたちは忙しくて一緒に踊る機会も少ないが、次の世代につなげていけたら」、同館の野田泰生館長(62)は「こんなにたくさんの資料がまとまったものは今までなく、1冊でつつてん踊りが分かる資料になっているのでは。大事に保管したい」と話した。
記録集は市教育委員会にも贈られた。