「おいしい」を原動力に 桃農家の森端さん
和歌山県紀の川市で特産の桃の出荷が最盛期を迎えている。同市桃山町市場の森端修平さん(42)は祖父から続く3代目の桃農家で、特産の「あら川の桃」を栽培。本格シーズンを迎え出荷作業にも力が入る。「しんどいこともたくさんあるが『おいしかった』の一言が何よりうれしい。その言葉のために頑張っています」と笑顔だ。
桃が大好きだという森端さんだが、異色の経歴を持つ。桃山町で育ち、県立那賀高校を卒業後、海外への憧れを胸にアルバイトで貯めたお金で2年間、バックパッカーとして世界を放浪した。
中国から飛行機を使わず陸路や船で移動してユーラシア大陸沿いを回り、自分の目で世界を感じた。
帰国後、23歳で獨協大学の英語学科に進学して語学を学んだ。「バックパッカーとして回った世界に恩返しがしたい」と、卒業後に青年海外協力隊に応募。しかし、希望が通らずに仕事を転々とした。
2010年3月ごろ、最後の挑戦と心に決めて青年海外協力隊に応募。11年3月から13年3月までペルーで環境教育という職種での派遣が決まった。
現地で生活し、日本では当たり前にあるものがペルーではないという状況を何度も経験。ペルーの人々の「なかったら作ればいいじゃないか。代用すればいいじゃない」という考えが、森端さんに大切なことを気付かせてくれたという。
「自分はないものねだりをしてきたのではないか」――。地元には「あら川の桃」があり、実家は兼業の桃農家。「後継者が少なくなる中でなんとか残していきたい。僕はこの地元に戻ってくるために海外に行っていたのかもしれない」。ふるさとから遠く離れた地球の裏側で、そんな思いを強くした。
帰国後、農業大学校(かつらぎ町)の社会人課程で実習などを経て、実家の畑で経験を積んだ。現在は8年目となるが、常に1年生の気持ちで桃と向き合っている。「自然が相手だから思い通りにいかないことが当たり前。日々トラブルや新しい発見があります」とほほ笑む。 収穫シーズンは午前3時半に起床して収穫や選果作業、出荷、箱詰めなどをし、午後7時ごろに仕事を終える。できるだけ桃が育つじゃまをしないようにと丁寧に手入れを行っている。
桃農家の後継者が不足している状況には、危機感をにじませる。「僕は地元に『あら川の桃』があったから帰ることができた。そのきっかけを残すことが大事。持続可能な桃農家として生活が成り立たないと人は増えないので、その糸口を見いだしていければ」と模索を続けている。
好きな言葉は「感謝と笑顔」。贈り手からの感謝を込めた桃と受け手の笑顔の好循環を目指している。「桃が届いた場所がハッピーになるように、これからもしっかりとおいしい桃を作り続けたい」と話している。