「奈良漬クリームチーズ」
前号では、伝統野菜を次世代につなぐために、「源五兵衛(げんごべい)」の素材を生かした創意工夫により、経済的持続性を成立させている鳥取の「とまり漬け」の事例を取り上げた。粕漬(奈良漬)を若者や海外の人々に親しみやすくしようと、粕漬を他の食材とアレンジする試みが広がっている。今週は人気が高まる「奈良漬クリームチーズ」を紹介したい。
先日、筆者は梅田駅近くの飲食店に居た。帰宅途中、同僚と立ち寄ったお店のメニューに、人気商品としてマーキングされていたのがこれだ。渋いメニューを選ぶねと笑われながら、迷わず注文してみることにした。
小さな鉢の中に、すりきり一杯に入れられたクリームチーズの中から、角切りにされた奈良漬が顔を出し、かわいらしい緑の飾り葉が乗せられ、その傍らにはクラッカーが添えられている。
スプーンで、奈良漬が練り込まれたクリームチーズをすくい取り、クラッカーに乗せて食す。「うまい!」。奈良漬特有の酒粕の香りが、クリームチーズのまろやかさと融合し、香り高い高級食材と化している。ビール、ワイン、日本酒、どのお酒にも合う味わいで、酒の肴にぴったりな存在である。
人気を博し始めたのはここ数年。大手の漬物メーカーなどが商品化し販売を開始。奈良漬として使用されている原材料は「クリームチーズ」「瓜」「酒粕」と表記されており、使用されている瓜の品種は分からないが、酒粕たっぷりで濃い味が特徴の源五兵衛は、おいしくいただけるであろうと感じた。
クリームチーズにはさまざまな種類があり奥が深い。奈良漬にも原材料や地域によって違いが多い。一見、相反するような存在の異色な組み合わせが、日本ならではの食材の新しい価値を見いだしている。(次田尚弘/大阪市)