まち歩きの旅行社創業 和歌山市の檀上さん
生活者の視点で旅をしてみませんか――。地域の名所や個人商店を巡り、住民の日常に溶け込むように魅力を体験する〝まち歩きツアー〟の旅行社「as.daily.life(アズ・デイリー・ライフ)旅行企画」を、和歌山市西浜の檀上智子さん(52)が創業した。地元を歩き、出合ってきた魅力的な場所や人を旅行者とつなぎ、自らガイドとして案内する新たな観光のスタイルが、共感を広げ始めている。
地域の魅力を共有 帰宅も楽しみな旅
檀上さんは広島県出身で、和歌山に移り住んで26年。紀北で地方新聞の記者を4年、フリーペーパーの営業職を1年半務め、地域の多くの人や場所の魅力を実感してきた。
旅行社を立ち上げるきっかけとなったのは、記者時代の2017年4月、オーストラリアから和歌山市を訪れた夫妻を取材したこと。交流が始まり、その後も来和するようになった夫妻と共に、地元の寺社やカフェに出掛けると、「住んでいる人が案内してくれると楽しい」と、とても喜んでくれた。
広島から訪れた家族を連れて出掛けた時も大好評。「私の知っている場所で十分喜んでもらえる」と強く感じた。
地元の店や場所に多くの人、特に県外の人を連れ、魅力を共有したいとの思いが強まり、地域の特色を観光資源として活用する「着地型観光」を担おうと、20年9月に「地域限定旅行業務取扱管理者」の資格試験に挑み、合格。22年12月、「日常生活のように」を意味する旅行社を創業した。
自ら歩き、訪れる場所や順路、時間などを丁寧に組み立てたツアーは四つ。和歌山市では、貴志川線のたま電車に乗り、伊太祁曽神社と周辺を歩くコース、和歌山城と城下町の個人商店を巡るコースの二つ。海南市では、日本庭園・温山荘園や漆器のまち黒江を巡るコース、下津町の福勝寺で行われている護摩行に参加し、住職らとふれあうコースがある。
全てのコースに共通するのは、美しい風景と温かい人、おいしい食事との「出会い」。檀上さんが交流を深めてきた個人事業主や名所の人々と旅行者がふれあい、ざっくばらんに話をしたり、買い物を楽しんだりできる。
地域の日常に溶け込む旅を通して、「お客さまが自身の日常生活に新たな視点を得ることができ、帰宅することも楽しみになるような体験、時間を提供したい」と願っている。
願い通りの出会い 大阪の生協と協力
創業からほどなくして、檀上さんの思いに共感し、協力することになる人との出会いが訪れた。生活協同組合おおさかパルコープ(大阪市、組合員数約45万人)で旅行部門リーダーを務める宗小都恵さん(53)だ。
宗さんは1月、檀上さんの会社のホームページを見て興味を持ち、20代の娘と共に最初のツアー客となった。
伊太祁曽周辺で熊野古道や果樹畑などを巡り、大衆食堂で昼食をとり、雑貨店で買い物を楽しむなどした。花の匂いを感じたり、あぜ道を案内されたり、「驚きとワクワクがいっぱいの旅で、長く歩いても時間は気にならなかった」。
帰りのたま電車の中ではもう、檀上さんと一緒にツアーをつくろうと考えていた宗さんは、早速上司に相談し、旅行部門として取り組むことが決まった。
檀上さんにとって、ツアーに込めた思いに共感し、地域の魅力を満喫してくれた「願い通りのお客さま」である宗さんからの事業の提案は、願ってもない、うれしいことだった。
宗さんは檀上さんのツアーについて、「有名な場所をつなぐのではなく、人の思いを取り入れ、地域の暮らしの中にいつの間にか溶け込んでいる旅。これからの旅行商品として面白い」と話す。
4月には、和歌山城周辺コースが、おおさかパルコープの旅行パンフレットに掲載される予定。
檀上さんは、ツアーの磨き上げやガイドの練習などに忙しい日々を送る。「まちが創業スクールだったように感じる。出会いで多くのことが変わった。これからも、どんな人に出会えるのか楽しみ」と話している。
【as.daily.life旅行企画】和歌山市西浜3の7の12▽℡073・488・5426▽メールinfo@wakayama-kankou.jp▽ホームページ(https://wakayama-kankou.jp/)