ハムスライス機はトップシェア 匠技研の新社屋完成

高速で正確にハムをスライスする大型機(同社提供)
高速で正確にハムをスライスする大型機(同社提供)

ハム・ソーセージのスライス加工機械製造の国内シェアでトップを誇る匠技研㈱が、和歌山市有本から同市布施屋に新築移転した。敷地面積は1300坪で以前の3倍に拡大し、大型機械の生産向上も期待される。西本嘉尹(よしたか)代表取締役会長(85)の熱い思いとともに、防災機能も一層強化した新社屋を紹介する。

全長10㍍以上の大型機の生産性も向上(同社提供)
全長10㍍以上の大型機の生産性も向上(同社提供)

匠技研は北海道から沖縄まで、全国の大手ハムメーカーから中小メーカーまで顧客に持ち、製造ラインでウインナーソーセージの結束部を切断する「ウインナーカット」や正確な重量でハムをスライスする機械を製造している。多くの特許を持ち、ウインナーカット機は市場を独占、ハムスライス機も国内トップシェア。日本の同製造機の歴史は浅く、西本会長は「競合はドイツ」と話す。

現在の社員は32人。県立和歌山商業高校や和歌山工業高等専門学校などから積極的に地元採用し、設計技師を含む8人の女性が活躍している。

売り上げは年間10億円。受注生産で機械の開発から設計、組み立て、販売後の出張修理など、アフターサービスまで対応。09年、県企業ソムリエ委員会激励賞企業に認定された。

新社屋は緑豊かでこだわりの植栽に囲まれている。社屋2階には設計や営業、総務の各部があり、1階は工場で、1台が10㍍以上ある大型機械の組み立て、試運転、立ち会いテストなどにスムーズに対応。機械は一つひとつ手作業で組み立てられる。西本会長は「職人の熟練の技と丁寧な手作業が、顧客が求める高精度の機械を生み出す。『作るのは1回、使うのは毎日』をモットーに、顧客の立場に立って作り出している」と強調する。

顧客から匠技研が選ばれる理由の一つとして、機械の「精度の高さ」がある。高速で正確な重量にハムをスライスし、サイズの不ぞろいや不良品の発生は1%以下という高い生産効率を誇る。近年は設定した重さになるように、ハムの断面積と厚さを自動調整し、高速スライスする機能も開発するなど、常に進化を続けている。

新社屋の設計部
新社屋の設計部

災害に強い施設で地域に寄与

「きれいな水が出た」と西本会長
「きれいな水が出た」と西本会長

敷地内には新たに井戸を設置した。災害時に生活用水として、工場だけでなく地域住民にも提供する。電気と手動で稼働し、停電時はLPガス発電機を活用。地域貢献できる会社を目指し、災害時は井戸の他、トイレなどの一部施設も一般開放する。

環境に配慮し、工場は冷暖房負荷が小さく設計されており、今後、太陽光パネルの設置を予定している。

社名の「匠」には、「優れた技術を身に付け、その道の匠を目指す」という思いを込めた。西本会長は「長年、ハムソーセージ機の世界に生きてきた。多くの機械のさまざまな歴史を紹介できる歴史館を作りたい」と意気込み、「小さな業界の一製品ですが、私の人生を精いっぱい懸け、オンリーワンになれました。今後も社員一丸となり、変化し、進歩を続けていきます。和歌山の人に少しでも当社のことを知ってもらえたら」と話している。

手作業で組み立てる職人
手作業で組み立てる職人

技術開発に懸けた半生

代表取締役会長 西本嘉尹
代表取締役会長 西本嘉尹

1953年、私が13歳の時、紀州大水害の山津波で、紀美野町毛原中の自宅と家業の工場を一瞬で失いました。当時の苦しい経験から、災害に強い会社づくりを常に意識してきました。新社屋に備えた井戸からはとてもきれいな水が出ます。災害時は少しでも地域のお役に立ちたいと願っています。

和歌山工業高校機械科を卒業後、冷凍機の設計技師として9年間励んだ後、ウインナーカットの技術に出合いました。以降、半世紀以上の生涯を機械の開発に懸けてきました。病気を乗り越えて2002年、もう一度、従来の機械の改良に挑むため匠技研を設立。62歳での起業は冒険でしたが、仲間を増やしながら、これまでに34の特許を取得し、昨年は県経営者協会のアントプレナー(起業家)大賞奨励賞を頂きました。

多くの方々に支えていただき、85年の人生の集大成として新社屋でのスタートを迎えることができました。これからもお客さまや地域に必要とされ、喜ばれる会社になれるよう精進し、まい進していきます。