廃棄果実に新たな命 夫婦で柿渋染タオル商品化

自慢の柿渋染めタオルを手に笑顔の山下さん夫妻
自慢の柿渋染めタオルを手に笑顔の山下さん夫妻

まだ渋く、小さいうちに間引かれ、地面に捨てられていく「摘果柿(てっかがき)」。和歌山県紀の川市下丹生谷で柿農園を営む「紀州山下農園」の山下篤さん(47)、由実さん(46)夫妻は、この廃棄される柿を活用した「紀州柿渋染めタオル」を完成させた。農家自らが研究を重ねて製品化した試みが注目され、同商品は先月、地域の魅力に「一石」を投じるとの意味が込められた市の認定ブランド「ISSEKI(イッセキ)」に選ばれた。

「捨てられる命」に光を

山下さん夫妻は新規就農して4年目。現在は「刀根早生(とねわせ)」など約140本の柿の木を世話し、収穫期には園地に「マツケンサンバⅡ」を流しながら笑顔で作業に汗を流す。「農業をしている今が一番楽しい。特に収穫の喜びは格別で、自然と心が躍ります」と2人は声をそろえる。

柿渋染めに取り組むきっかけは、就農後に直面した「摘果」作業だった。捨てられていく大量の柿を前に、2人は「この命を何かに生かしたい」と強く感じたという。

独学で研究を開始し、摘果柿を粉砕・熟成させた自前の柿渋液を開発。染めたタオルを篤さん自身が農作業中に使用し、高い消臭・抗菌効果を実感したことが商品化への自信となった。その使い心地は「汗のにおいが気にならない」と農家仲間の間でも評判を呼んでいる。

コロナ機に人生再考

この道に進むまで、篤さんは鉄道会社に勤務し、単身赴任も経験するなど仕事中心の生活を送っていた。転機はコロナ禍。「家族や地域と向き合い、笑って過ごせる人生を歩みたい」と将来を見つめ直した際、篤さんの脳裏に浮かんだのが、九度山町で柿農家を営んでいた祖父母の姿だった。当初は定年後の就農を考えていたが、持ち前の行動力を発揮したのが由実さん。すぐに御坊市の県就農支援センターへ通い始め、2022年から半年間学び、翌年2月に卒業。農地を借りられるめどが立ったことで計画が早まった。

篤さんは当初、二の足を踏んでいたが、由実さんの「できるよ。まずは土日だけでも」という言葉に背中を押され、週末農業からスタート。しばらくして「体が動くうちに」と43歳で早期退職を決意した。

地域と人結ぶ体験に

今後の夢について、篤さんは「これからは農業を通じて、地域や家族とじっくり向き合っていきたい。家族で笑いながら過ごすのが一番の目標」と話す。

由実さんは「先人の知恵を現代に伝える農業者として、柿渋染めを地域の体験コンテンツに育てたい。地元の小学生や都会の人に、この魅力を発信できれば」と意気込んでいる。

「紀州柿渋染めタオル」は同市の道の駅青洲の里で販売している。