「地球市民」育成へ 英名門校で実践、クルーズ氏に聞く

国際的に活動する人道支援家のリンダ・クルーズ氏が和歌山市を訪れた。2027年9月、同市梅原に開校する英国の名門インターナショナルスクールの姉妹校「ゴードンストウン・ジャパン・ウェスト校」の課外活動のディレクターを務めており、世界の課題に挑戦し、解決へと行動する「地球市民」の育成に情熱を注ぐ。ことし8月、同校の課外活動を体験できるサマープログラムを市内で実施する準備を進めているクルーズ氏に、同校の教育が目指しているもの、世界に求められている人材像などを聞いた。
ゴードンストウンが掲げるリーダーシップとはどのようなものですか。
生徒たちが将来の良きリーダーに、すなわち良い人間になることに他なりません。大切なのは、敬意と思いやりという価値観を持ち、最高の自分になるために挑戦を続けること。これがゴードンストウンのリーダーシップの本質です。
ゴードンストウンには「Plus est en vous(More in you than you think)」というモットーがあります。フランス語で「あなたの中にはもっと多くの可能性がある」という意味です。ゴードンストウンの哲学は、自分の中にある良いものを見つけ、引き出していくことであり、創設者のクルト・ハーンはいつも問いかけます。「本当のあなたは誰か。なぜここにいるのか。それを見つけ、生き、輝かせなさい」と。
ご自身の経験は教育にどのように生きていますか。
私は7大陸全てで活動し、人道支援者であると自覚しています。大規模な災害発生時には人々を支援してきました。ヒンドゥー教、仏教、イスラム教、キリスト教など主要な宗教の人々、あらゆる肌の色の人々と共に、サハラ砂漠、アマゾンのジャングル、雪のヒマラヤ、北極、南極など世界中で働いてきました。
だから私は、生徒たちが「地球市民」になるための手助けができます。日本には非常に力強い、伝統的な、素晴らしい文化がありますが、世界にも多くの素晴らしい文化、宗教があります。ゴードンストウンにおいて非常に重要なことは、全ての人への敬意、お互いへの敬意、異なる文化や年齢、信仰への敬意です。これが世界に平和を築く方法です。生徒たちには、目を大きく開いて世界を見てほしいのです。
サマープログラムの構成について教えてください。
「Me(私)」「We(私たち)」「World(世界)」の三つのセクションを設けています。
「私」では、生徒たちが自分の内側を見つめることを促します。何が自分を幸せにするか? 何が自分を歌わせるか? 何が自分を生き生きとさせるか? クルト・ハーンは、与えられた才能を分かち合うことが私たちの責任であり、義務だと信じています。皆がそれぞれ持っている異なる才能を見つけ、使うのです。
「私たち」では、和歌山市の地域課題である「プラスチック汚染」に取り組みます。友ヶ島には多くのプラスチックごみが流れ着いています。生徒たちを友ヶ島に連れて行き、実情を知り、漁師の皆さんと会い、プラスチック汚染によって起きている問題を理解します。
全ては「行動」が鍵です。私たちのスローガンは「リアルな人々、リアルな問題、リアルなインパクト(影響)」です。仮定の話ではなく、現実の問題を生徒たちに提示し、生徒たちは批判的思考で問題を解決しなければなりません。生徒たちは、それぞれの家庭や学校、国でどんな行動をとるかを誓約します。
「世界」ではどのような活動をするのですか。
私はネパールのヒマラヤ山中にあるコミュニティを選びました。その村の人々は非常に粗末な住居で暮らし、ベッドも水道もトイレも、料理をする場所もありません。医薬品も買えず、学校に通う費用も払えません。
生徒たちには、実在する家族を支援する課題を与えます。「あなたの仕事は、人里離れたヒマラヤの村で、家族がお金をかせぐ方法を見つけることだ」と。生徒たちはインターネットを通じてその家族と対面します。
「魚を与えれば一日食べられる。魚の釣り方を教えれば一生食べられる」という言葉があります。生徒たちが取り組むのは、家族と向き合い、その自立心、自尊心、尊厳を取り戻すことです。これらは重要なキーワードです。親は自分で食べ物を買いたい、子どもに靴を買ってあげたい、薬を買ってあげたいと思っているからです。
家族と話し、貧しさとはどういうことか理解し、どう支援すべきかを考え、行動に移します。私のチームがネパールにいるので、生徒たちが「これは良いアイデアですか?」と家族に尋ね、家族が「はい」と答えたら、すぐ実行です。
どのような人材の育成が重要でしょうか。
世界は不安定で不透明です。戦争もあれば、災害も、環境汚染もあります。若者を心身ともに強くしなければなりません。「大変だ、戦争だ。逃げ出したい」ではなく、「私には行動を起こす力がある」と感じられるようにすることが、本当に大切なのです。
サマープログラムの成果は、ゴードンストウン・ジャパンの通年の学校生活に反映されます。生徒たちは自身の可能性を最大限に引き出すことに注力します。次に社会にどう貢献し、和歌山やその周辺地域にとって良き市民となるか。そして最後に、外の世界に目を向け、私たちが受けた恵まれた先進国の教育を、社会のためにどのように役立てるか。「私」「私たち」「世界」の三つの軸です。
ゴードンストウン・ジャパンは、和歌山市だけでなく、県全体、日本、そして世界に向けた本物の架け橋であり、財産でありたいと思っています。生徒たちの善意と知性を輝かせたいのです。
【リンダ・クルーズ氏】
英国出身の国際的人道支援家、リーダーシップの専門家。スーツケース一つだけを手に、25年以上にわたりヒマラヤやサハラ砂漠、大規模な自然災害の被災地、紛争地域などで困難な状況に置かれた人々と共に暮らし、支援活動を続けている。「世界を変える最も影響力のある女性」の12位に選ばれ、チベット仏教のダライ・ラマ14世、英国のチャールズ3世国王をはじめ世界の多くの指導者も活動に賛同し、支援している。


